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もっとも重要なノウハウは「暗黙知」 -日本鉄鋼業の強み-

アメリカのトランプ大統領が、鉄鋼製品の輸入に対して20%の関税をかけました。それに対する日本の鉄鋼関係者は、とてもクールな反応でした。アメリカへの輸出品の大半が、世界の中で「日本でしか作れない鉄鋼製品」であることを知っているので、「関税が高くなってもアメリカ企業は日本の鉄鋼製品を買わざるを得ない」「関税はアメリカの企業が負担することになる」と考えていたのです。
一例を挙げると、石油・天然ガスを採取するための「継目無管」。過酷な環境に耐えることができる高級品は日本でしか作ることができません。鉄鋼関係者の予想どおり、2018年7月現在、アメリカ向けの輸出が絶好調で、日本の継目無管工場は、フル操業になっていると、日経新聞が報じていました。
「高級継目無管」は、日本の工場では作ることができますが、なぜ、アメリカの工場では作ることができないのでしょうか。
それは「現場力」の差にあります。高度なスキルを身に着けた「日本の現場マン」と単なる労働者である「アメリカの現場マン」との違いです。
日本の現場マンは、下記のようなスキルを身に着けています。

三浦さんのBrain

三浦さんは、形鋼の圧延一筋40年という人でした。
40年の経験を、三浦さんは「三浦さんのBrain」に詰め込んでいます。
新製品を作ったときの失敗例・その解決方法、トラブルが起きたときの対処方法、生産能率を高めるための様々な工夫、そんな事例が、「三浦さんのBrain」に書き込まれています。
お客さんから「こんなものが欲しい」と言われると、三浦さんのCPUが動き出し、必要な情報を集め、それらを繋ぎ合わせて「新しい知」を作り始めます。
新製品を製造し始めると、かならずトラブルに遭遇します。この時も。三浦さんのCPUが動き出し、必要な情報を集め、それらを繋ぎ合わせてトラブルを解決します。
三浦さんのBrainは、文章化できません。「形式知」にならないのです。

佐藤さんのBrain

佐藤さんは、高炉の操業一筋40年という方でした。
40年の経験を、佐藤さんは「佐藤さんのBrain」に詰め込んでいます。
高炉は、人間の体によく似ています。「お腹をこわしたり」「一部が固まってしまったり」「破ける恐れがでたり」
高炉には多くのセンサーが付けられ、その情報が刻々と変化します。
100以上のセンサーの情報をみて、佐藤さんのBrainは、どんな症状が出ているのか、その原因は何かを推定します。そして解決手段を施します。医者が、血液検査のデータをもとに、診察するのと同じです。
佐藤さんのBrainも、文章化できません。

三浦さんも佐藤さんも、「暗黙知」を身に着けています。
長い間、時間をかけ、経験を積み重ねることによって初めてゲットできる「暗黙知」。こうした「暗黙知」が「世界の中で、日本でしか作ることが出来ない製品」を産んでいるのです。
「暗黙知」はノウハウでもあります。人に属し形式知化が不可能なノウハウ。
絶対に漏洩することのない『究極のノウハウ』ということができます。日本鉄鋼業の強さの秘密がここにあります。

(M.S.)