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ノーベル医学生理学賞・本庶佑氏の偉業 – がん治療の新地を開いた –

10月1日、京都大学特別教授の本庶佑氏が、2018年のノーベル医学生理学賞を受賞しました。「元がん患者」のワタクシにとって、ものすごくうれしい受賞です。
昭和63年に自分が罹った腎臓癌は、治療薬がほとんどなく、外科手術以外に根治の手段はありませんでした。病状はステージⅢBで、リンパ節に転移し、腎臓の近くのリンパ節は大動脈の位置をずらすほど大きくなっていました。医学雑誌で調べてみると、当時の5年生存率は20%でした。
腎臓がんに対しては、化学療法も、放射線治療も効果がないとされ、それらの治療を受けたことがありません。受けた治療は、腎臓の摘出とリンパ節廓清、手術後のインターフェロン投与でした。手術後は、「免疫治療」以外に方法がありませんでしたので、生きるために、免疫の勉強をしました。

自然免疫

インターフェロンは、マクロファージとNK細胞(ナチュラルキラー細胞)を刺激し、腫瘍細胞の増殖作用を抑えるという効果をもつといわれています。毎日、筋肉注射でインターフェロンを投与しましたが、投与後はかならず38度の熱が出ました。脱毛も起こりました。でも、これしかなかったので、投与を3年間継続しました。
マクロファージ、NK細胞は、免疫の第一段階で働く細胞で、自然免疫と言われるステージで働く細胞です。
体の中で異物をみつけたとき、マクロファージは異物を食べてしまいますし、NK細胞は細菌に感染した細胞を攻撃して感染が広がるのを防いだり、癌細胞を攻撃したりします。
でも、マクロファージ、NK細胞による自然免疫では、増殖した癌細胞をやっつけるのには限度があります。

獲得免疫

最強の免疫細胞はT細胞です。リンパ球の一種で、骨髄で生まれ、胸腺に移送されて成熟したものです。T細胞は、異物の情報(抗原)を抗原レセプターで受け取り、異物と認識した時に攻撃に移ります。
その攻撃力はすさまじく、マクロファージやNK細胞よりもずっと強力です。

獲得免疫というのは、後天的に獲得した免疫で、「はしか」に罹ると「二度と、はしかには罹らない」事象で例示されます。最初に「はしか」に罹ったときに体内に「抗体」が形成され、後日「はしか」の病原体が入ってきたときに、T細胞が「はしか」病原体と認識し、すぐさま攻撃をしかけるためです。
ワタクシが腎臓がんに罹ったときも、T細胞によるがん治療の期待がありました。でも、世の中に認められている治療法はありませんでした。
民間療法で“佐藤療法”というのがありました。がん細胞が増殖するのは、異物の情報を認識する抗原レセプターの機能が弱くなっているためで、それを強化しようというのが治療コンセプトでした。「『これががん細胞ですよと抗原レセプターに教育を施す』。それが佐藤療法です」と、佐藤先生が説明してくれました。現在も、クリニックが存続しています。二代目が継いでいます。 http://www.yscbrp.com/

オプジーボ -本庶佑教授の成果-

本庶さんは、がん細胞に対し「抗原レセプターの機能が弱くなっているのはなぜか」という点を明らかにしました。
T細胞は、「自分を攻撃」する危険性があります。それを阻止するために、T細胞の攻撃にブレーキをかける物質があったのです。本庶研究室は、その物質を発見しました。PD-1(Programmed cell death-1)というたんぱく質です。

一方で、がん細胞の表面には、PD-1に特異的に結合する物質PD-L1が存在することがわかりました。そして、PD-L1がPD-1と結合すると、T細胞が、がん細胞を攻撃しなくなることを突き止めました。
右の図のような状態です。
本庶さんは、PD-L1がPD-1と結合するのを阻害する物質があれば、画期的ながん治療薬になると考え、製薬会社に提案しました。
小野薬品が本庶さんの提案を受け入れ、開発したのが、がん治療薬「オプジーボ」です。
「オプジーボ」は、がん細胞の表面にあるPD-L1の働きを阻害する作用を有する薬品です。

オプジーボの最大の成果は、ステージⅣ(がんが他臓器に転移している状態)の患者が救われるようになったことです。いままでは、ステージⅣになるとあきらめるしかありませんでした。がん患者に希望を与えました。

オプジーボの課題

現在の課題は、「効く人と効かないひと」がいて、効く人の割合がまだ低いということです。また、「効くがんと効きにくいがん」があり、すべてのがんに効果があるわけではない、ということです。

有効率はまだ20%程度です。なぜ効かない患者がいるのかの解明が多くの研究者によって行われています。
現在、「皮膚がん」「肺がん」「腎臓がん」「悪性リンパ腫」「頭頸部腫」「胃がん」にオプジーボが効くとされています。他の癌に対する有効性も上げたいものです。
課題が明確になると、研究はぐんと進捗します。かならず、機構が解明され、新薬が登場すると思います。

(M.S.)