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第440回例会報告

12月10()、日鉄総研本社 国際ビルよりリモート会議にて、42社・133(リアル11名、リモート122)の出席により第440 ATIS例会を開催しました.当日行われた議事の中から、 (1) パナソニックIPマネジメント() 副社長 石田 慎二氏によるシンポジウム、並びに(2) 本田技研工業() 知的財産・標準化統括部 統括部長 別所 弘和氏による講演「Hondaの知財戦略 – AI知財管理、IPLの取り組み、知財創出の取り組み等」について紹介いたします。

(1) パナソニックIPマネジメント() 副社長 石田 慎二氏によるシンポジウム

パナソニックIPマネジメント()は、パナソニックグループの各事業部門にあった知財部門を2014年に集約。親会社であるパナソニックから知的財産を「信託」として譲渡を受け、権利化、ライセンス交渉を推進しており、「知財創造し価値を高める(専門力)」「さまざまなノウハウを最適化(連携力・統合力)」「知財をビジネスにつなげる(提案力)」を備えていくことが大切と考えているとのことです。知財部門の役割として、事業変化に対応できる戦略性、変化のスピードに追いつくための機動性を強化し、競争相手などを俯瞰で把握した上で知財戦略を立案、実行し、事業に貢献できるようにすることが重要である。そのためには、高い専門性に基づく分業体制とネットワーク、変化に対応する瞬時の現場判断を大切にしているとのご説明がありました。

具体的な取り組みとして、国際標準化活動による市場形成や、知財経営者に困っているフェーズごとにアンサー例を確保し提案している取組み、さらにはアフターコロナレポートとして、新ニーズに対するソリューションの事例・情報提供(社内のweb12例提案)された事例のご紹介をいただきました。また、新たな価値創造に向けての人材育成の重要性の視点から、社内にて実践されているOKRO(Objectives) and KR(key results))の取り組み事例のご紹介がありました。

発表終了後も、経営に対して知財の関与・貢献できるポイント等、活発な質疑がなされました。

 

(2) 本田技研工業() 知的財産・標準化統括部 統括部長 別所 弘和氏による講演

次に、本田技研工業() 知的財産・標準化統括部 統括部長 別所 弘和氏から、「Hondaの知財戦略 – AI知財管理、IPLの取り組み、知財創出の取り組み等」と題し、講演を頂きました。

本田技研工業()の出願戦略(特に海外への出願動向等)の他、グローバル事業戦略と知財戦略との関連に基づき、地域ビジネスに直接リンクする権利行使の事例の紹介がありました。

Hondaの商標権、意匠権、特許権等を侵害する不正商品は、司法の場で徹底的に争う姿勢を貫き、中国では、基本的に全コピー車を意匠、商標、特許を活用して訴訟を提起、当該意匠権の無効審判等も提起されたが、意匠権の有効性が認められ、かつ侵害訴訟で勝訴、コピー車の排除に成功した取組み等のご説明をいただきました。このような経験の中で、中国対外国の構図を排除し、徹底した法根拠の明示、ディベート力の重要性等を学んできたとのことです。また、ベトナムでは、二輪車市場対策にて商標、意匠権を行使した係争を行い、コピー車排除に成功を収めた事例など様々な体験談をお聞かせいただきました。

さらに、中国での事業展開の中で、新大洲本田魔托車有限公司を設立し、高機能な部分は特許で保護するとともに、部品メーカーとの間ではライセンス契約を締結し、顧客にとって価値のある差違とはならない部品は、デファクト標準化を狙い、その技術を部品メーカーにオープンにすることで、部品を安価で調達し、価格競争力のある商品を投入することができたOpenClose戦略の事例も紹介いただきました。

次に、技術戦略を前提とし、それに連動した事業戦略と知財戦略の三位一体の事例として、発電機のコピーメーカーとの訴訟の取り組みについてもお話しをいただきました。発電機の模倣品対策においては、重要市場の欧米(米国、独、英、仏)を最優先して訴訟を行い、侵害・有効性に加え、「設計変更の難易度」や欧州各国の訴訟の相違点を利用することも検討、日本の知財部門が全体をコントロールして各国の制度に合わせて戦術を使い分け、侵害品の排除に成功したとのことです。

全く異なる視点として、第4次産業革命と知財の仕事の観点から、知財活動にAIを活用した事例もご紹介いただきました。作業工数を削減することを目的に、年金支払い(知財権利存続性)判断にAIツールを用いて、権利維持の要・不要を確定する上で、複数のパラメータの特徴量を数値化した上で、権利維持判断への寄与度が高いパラメータとして「客観的価値評価」、「権利維持費用」を特定。その結果、AIの判断でも担当者の判断でも不要となった7000件と、AIの判断で不要となったものの、担当者が必要と判断された7500件についてのみ、年金支払いの判断にリソースを集中することで、業務量の70%削減を実現できたとのことです。AIに全ての作業を委ねるのではなく、AIと人の作業のハイブリッドで効率化する、という考え方も有効で、人とAIのコラボレーションが非常に大事であると感じているとのことです。

さらには、withコロナ時代の新しいIPランドスケープとしてK-methodを開発し、広い範囲で業界様子を把握できる手法や、ワイガヤをシステム化する試みとして、600人規模でYG Innovation Facilitatorを実行した事例についてもご紹介いただきました。

別所様の講演を通じて、本田技研工業()にて取り組んでいる具体的な実践事例を数多く学ぶことができ、講演終了後も、多くの会員メンバーから具体的な質問が多くなされました。今回の講演は、ATIS会員各社にとって、大変興味深く、非常に有意義なお話しをお聞かせいただけたと思っています。