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先行文献調査はAIにとって替わるか

「替わることが出来る」と思います。
これだけ環境が整っている分野はめずらしいと思うのです。
調査対象となる特許出願は、特許請求の範囲の文言でテキスト化されています。特許請求の範囲は発明のエッセンスであり、象徴です。そこがきっちりテキスト化されていることは、「検索対象の文言」がはっきりしていることです。
その特許出願の特許性を調べるための特許文献も全部テキスト化されています。テキスト化された特許文献が収納されているDBは、各国が力とお金をかけてメンテナンスしています。世界的にも統一され、検索しやすくなっています。
IPCCを代表例とする「先行文献調査」は、サーチャーが、自分の持っている知識を用いて、対象とする特許出願の技術内容を理解し、「キーワード」を選び、文献を集めます。
キーポイントは、AIがサーチャーになれるかです。
20年も前になりますが、知財部長をやっていたとき、会社のリストラで、知財部員の就職先を探していました。IPCCは絶好の再就職先でしたが、先輩知財部員は入社試験に落っこちてきました。知財部長だったワタクシは、「なにゆえに落ちたのか」IPCCに尋ねに行きました。IPCCの所長が言ったことは、「検索のテクニックは不要です。それはすぐに身に付きます。我々が求めているのは、研究者としての知識なのです」
あれから、AIは発達しました。Deep Learningすれば、「研究者としての知識」もAIにとっては簡単なことだと思います。IBMの「ワトソンくん」は、医者に替わって患者の病気を診断する能力を持つようになりました。それを思うと、先行文献調査などはごくごく簡単なことです。
ただし、「実現には時間がかかる」と思います。
理由は、市場が小さいからです。
先行文献調査をビジネスとして行っているのは、大企業の子会社が大半です。独立して、先行文献調査をビジネスにしている会社もありますが、そんなに繁盛しているとは思えません。先行文献調査しなくても特許出願はできますし、高い審査料を払うわけですから、中小企業は、先行文献調査をあまりやらないで出願ということになっているのではないかと思います。
なので、先行文献調査AIが出来ても、売れるところは多くありません。先行文献調査AIの開発はビジネスとしてペイしないのではないかと思うのです。
ただし、汎用AIが出来ると、ちょっとしたアプリケーションソフトで動かすことができるようになります。そうすれば、現在の規模の市場でもペイするようになります。先行文献調査会社やIPCCがとても困ることになりますが。汎用AIの出現は2030年ごろと言われています。

(M.S.)