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岩谷時子さんの凄さ – その人のために書いた詩 –

平日の12:30から、『越路吹雪物語』が放映されていました。
自宅で仕事をしているものにとっては、昼休みでもあり、見てしまいます。見ているうちに、引き込まれ、見なくてはいられない状況に陥りました。越路吹雪は、こういう人生を送ったのかと、いまさらながら、心に沁みるストーリが展開されました。

越路吹雪もよかったのですが、それ以上に心打たれたのは、岩谷時子さんでした。

谷時子さんを知ったのは、加山雄三の「お嫁においで」が最初でした。作詞家として名声を博しており、「著名な作詞家のひとり」としての位置づけでした。それが、今回の『越路吹雪物語』で、越路吹雪のマネージャだったのを知り、驚きました。
ワタクシは、学生時代からシャンソンが好きで、シャンソンを原語で唄うために、フランス語を学びました。ミッシェル・ポルナレフ、アダモ、ジルベール・ベコー、イヴ・モンタン、19世紀のシャンソンなどを原語で唄えるようになりました。
アダモの「サン・トワ・マミー」も原語で唄っていたのですが、あとになって、越路吹雪の唄う「サン・トワ・マミー」の訳詞が岩谷時子さんだと知ります。エディット・ピアフの唄う「愛の賛歌」の訳詞も、岩谷さんだと知りました。アダモの「ろくでなし」「雪が降る」も岩谷さんの訳詞でした。
みんな、原曲とは違う詩になっていました。
たとえば、アダモの「サン・トワ・マミー」。原曲は以下のような詩です。

Sans toi ma mie

Je sais tout est fini J’ai perdu ta confiance
Néanmoins je te prie De m’accorder ma chance

すべてが終わってしまった。それは分かっている。僕は、君の信頼を失ってしまった。でも、お願いだから、もう一度、僕にチャンスをくれないか」
という情けない男の詩です。そのあと「そんなに厳しくしないで」とうセリフも入ります。

それを、岩谷さんは、
「ふたりの恋は、終わったのね 許してさえ、くれない、あなた。
サヨナラと、顔も見ないで、去っていった、男の心」と訳します。
すこし態度の大きい越路吹雪が歌うとぴったりします。

「愛の賛歌」も、原曲とは違う詩になっています。

Hymne a L’Amour

Le ciel bleu sur nous puet s’effondrer
Et la terre peut bien s’ecrouler
Peu m’importe si tu m’aimes,
Je me fous du monde entier.
Tant que l’amour inondera mes matins,
Tant que mon corps frémira sous tes mains,
Peu m’importent les problèmes,
Mon amour puisque tu m’aimes.

エデシット・ピアフの唄う「愛の賛歌」の原語は、左のとおりです。訳すと下記のようになります。

もしも蒼空が崩れ落ち
そして地が割れようとも
私は気にしない、あなたが愛してくれるなら
私は気にしない
私の朝が愛で溢れるかぎり
私の体があなたの腕の中で震えるかぎり
私は気にしない
あなたが私を愛してくれるなら

この激しい詩を、越路吹雪が歌いたい歌詞に、岩谷さんはこしらえました。
「あなたの燃える手で、あたしを抱きしめて ただ二人だけで 生きていたいの
ただ命の限り あたしは愛したい 命の限りに あなたを愛するの」
原曲の激しい愛を、完全に理解し、岩谷さんは、越路吹雪のためだけに、言葉を選びます。
重要なのは、この詩を越路吹雪が「完全に自分の言葉で唄っていること」です。そして、「その詩に、越路吹雪は陶酔」しています。

岩谷時子さんは、歌い手の才能を引き出すのがとても上手。歌い手をその気にさせる詩を作り、歌い手の個性を魅力的な力に変えることができる。そう思いました。

そう考えてみると、ザ・ピーナッツもそうでした。加山雄三もそうでした。その言葉を列挙してみると下記のとおりです。

  • ザ・ピーナッツ:「ため息の出るような熱い口づけ(恋のバカンス)」「後姿の幸せばかり(ウナ・セラディ東京)」
  • 加山雄三:「濡れた体で駆けて来い(お嫁においで)」「幸せだなあ、君と居る時が一番幸せなんだ(君といつまでも)」
  • ピンキーとキラーズ:「夜明けのコーヒーふたりで呑もうと あの人がいった(恋の季節)」
  • 岸洋子:「夜明けのうたよ 私の心の 昨日の悲しみ 流しておくれ(夜明けのうた)」
  • 沢たまき:「ベッドで煙草を吸わないで。私を好きなら火を消して」
  • 佐良直美:「冷たい女だとひとは言うけれど、いいじゃないの、幸せならば」

凄い才能をもった人でした。地味で清楚な岩谷さんから生まれた言葉とは思えません。

(M.S.)