トピックス

  • HOME
  • トピックス
  • 漢字という表意文字の持つ力 -和製翻訳語の凄さ-
  • 談話室

漢字という表意文字の持つ力 -和製翻訳語の凄さ-

会社生活を終えた昔の仲間が集まって「研究会」を開いています。3ヶ月に1回集まり、各自が興味をもって研究してきたテーマで1時間ほど話します。メンバーは、1970年代~1980年代にNKKで一緒に研究を行っていた「溶接研究室」の有志8名。年齢構成は80歳代2名、70歳代3名、60歳代3名です。
これまで発表された研究テーマは、「古代史の実像」「明治という時代」「フランスはどういう国か」「ダークマターと隕石の衝突」「宇宙論」「暗黙知」などです。
現役時代に発揮されたメンバーの好奇心はいまだ衰えず、研究会では、つぎつぎと新しい世界が展開されていきます。
最近の研究発表で、すごいことを教えてもらったのは、「幕末の翻訳者」の話でした。津山藩の蘭学者である宇田川榕庵の翻訳に驚きました。Kさんの研究成果でした。
 水素、酸素、窒素、炭素、白金といった元素名、
 酸化、還元、溶解、分析といった化学用語、
 細胞、属といった生物学用語
を作ったのが、宇田川榕庵とのことでした。
宇田川榕庵は、1798年(寛政10年)生まれ、1846年(弘化3年)没。明治元年が1868年ですから、完全に江戸時代の学者です。
訳語を、じっくり見てみると、用語の深い意味が解らなければ、翻訳はできないことがわかります。そのことに気が付いて、すごいなあ、と深く感動しました。
宇田川榕庵は、用語の物理的意味、化学的意味を完璧に理解した上で、漢字でその意味を表現するという離れ業を行っています。「酸化」や「還元」というのを解っていたのでしょうか。化学反応式は知っていたのでしょうか。きっと解っていたのでしょうね。でなければ、こんなすばらしい翻訳はできなかったと思います。それに、これは翻訳でありますが、同時に造語でもあるのです。
これらの造語は、中国でも使われているそうです。
この時代(江戸時代)に、物理学・化学・生物学を、日本人学者がここまで理解していたのですね。日本人の学問に対する好奇心と理解力に感動します。ノーベル賞受賞者が日本人からたくさん輩出されるのも、江戸時代からの伝統があったからではないかと思ったりもします。
加えて、漢字の凄さを、Kさんは、「水村美苗さん(小説家・評論家)の言葉」を用いて教えてくれました。
・西洋語という新たに登場した<普遍語>を翻訳するのに、漢字という表意文字ほど便利なものはない。漢字は概念を表す抽象性、さらには無限の造語力をもつ

・言語学者による翻訳を通じて、日本の言葉は、世界と同時性をもって、世界と同じこと(普遍語に蓄積された知識や技術の叡智)を考えられる言葉へ変身。
・漢字文化圏の地域が、西洋の植民地にならなかったのは、漢字に西洋語を理解、翻訳、吸収するだけの力(圧倒的な語彙数の多さ)があったから
なるほど、と思いました。流行語で言うと『そだねぇー』です。
上記の宇田川榕庵の他にも、すごい和製翻訳語・造語がありました。
西周(にしあまね:1829年生まれ、1897年(明治30年)没)
 権利、芸術、理性、科学、技術、心理学、意識、知識、概念、帰納、演繹、定義、命題
福沢諭吉(1835年生まれ、1901年(明治34年)没)
 自由、経済、演説、討論、競争、抑圧、健康、楽園、鉄道、文明開化
先人の凄さと漢字が持つ力に感銘を受けます。

(M.S)