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遺伝の力 - 意外と大きいのです –

また、孫の話になって恐縮です。

孫が生まれてから、孫の成長をみることができるようになりました。前にも述べましたように、孫の成長は「客観的にみることができる」のです。

そうした中で、強く感じたことがありました。人間の行動は、先天的に備わっているもので動かされており、ほとんどが前もって決まっているのではないか、ということです。

0歳の孫の行動は、ほとんど教育を受けていない状態での行動ですが、教育を受けていなくても、はっきりと性格が形成されていました。興味の対象も、行動の様式も、個性に溢れていました。

5歳くらいになると、より人間的な行動をするようになります。そうすると、孫がだんだんと自分に似てきました。手先が不器用で食べ物をよくこぼす、好きなことをやり始めるとそれに集中して人の話を聞かなくなる、興味のないことはやらない、片づけが出来ない、などです。

遺伝率 - 行動遺伝学 –

そんなとき、「なぜ人は学ぶのか」(講談社現代新書)という本に出逢いました。慶應大学教授の安藤寿康氏が書いた本でした。安藤氏は、学習能力や性格におよぼす「遺伝と環境」の影響を研究していました。

遺伝の影響を調べる手法は、双生児法というものでした。

一卵性双生児と二卵性双生児の行動を調べるのです。一卵性双生児は遺伝的にまったく同じです。一方で、二卵性双生児は半分の遺伝子しか共有していません。これを利用します。

どちらの双生児も、母親の子宮や生後の家庭環境に差はありません。一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも類似していたら、遺伝の影響があることになります。そして、その差が大きければ大きいほど、遺伝の影響が強いことになります。

一卵性にも二卵性にも差がなく、きょうだい同士が似ていたら、一緒に育った家庭環境(共有環境)の影響があったことになります。

一卵性も二卵性もどちらもぜんぜん似ていなかったら、他の環境(非共有環境)の影響が強かったということになります。

「類似度」を「相関係数」で表し、簡単な一次連立方程式を作ると、遺伝率、家庭環境(共有環境)の寄与率、他の環境(非共有環境)の寄与率を求めることができます。

学業成績を決める因子の80%は遺伝と家庭環境

学業成績が数値化しやすいので、安藤寿康氏は、テストの点数を調査対象としました。

下の図は、IQに及ぼす遺伝、家庭環境、他の環境の影響を示したものです。遺伝の影響は50~65%となっています。家庭環境が20~30%、他の環境が20~25%です。

遺伝の影響が一番大きいことが分かります。

一方で、他の環境の大部分が、学校教育になりますが、その影響が驚くほど小さいことがわかります。いい学校に行っても、IQはたいして伸びないということになります。

IQの他にも、国語、算数、理科、社会、図工、音楽、体育などの項目について調査を行っています。その結果、「行動遺伝学のエビデンスは、先生の教え方や本人の中で変えられる要因の違いの影響はわずか、数字にすると大きく見積もっても全体の20%程度、それに対して遺伝の影響は50%、そして残り30%は家庭環境の違いであることを示しています」と述べています。

本人にはどうすることもできない遺伝と家庭環境で、学業成績の80%が決まってしまうのです。

パーソナリティを決めるのは遺伝と外部環境

安藤寿康氏は、パーソナリティについても検討を行っています。右の図は、5項目のパーソナリティに及ぼす遺伝、家庭環境、他の環境の影響を示したものです。

遺伝の影響と他の環境の影響が半々で、家庭環境の影響がほとんどないことがわかります。「たとえば、あなたの神経質さというのは、家庭の中で親が神経質な行動をしているのを毎日見ていて、そのやりかたを意識的・無意識的に学習するように導かれたものではないということです」と述べられています。

遺伝が半分はわかりますが、家庭環境がほぼゼロというのはビックリですね。他の環境が半分ということは、パーソナリティの形成に、一緒に遊んだり学んだりした友達の影響が大きいということでしょうか。

多少の相違はありますが、学業成績、パーソナリティともに、遺伝の影響が、かなり大きいことを教えてもらいました。

(M.S.)